未来の自分を好きになるために

別に俳優をわずらわすまでもなく、ずぶのしろうとにもできることである。しかし幾日も幾日も経つうち、ついに見覚えのある着物にもどってきたので、そこで彼女の所有の限界が知れた。たとえば「私は思う」という青葉はだれもが自由に使うことができるし1活字にすればだれの書いたものもまったく同じであるが、襲際に与える効果は千差万別で、山のような重みをもって迫ってくる場合もあれば、吹けば飛ぶようなのもある。

ないしは否定したがる傾向を持っている。このうち、例年のとおりベスト・テソを選ぶとすれば、なお三十八木の平凡作が残る。それと、もーつは、こういう特殊な技術の習得の結果を見ることは、よく芸を仕込まれた動物を見るのと一緒で、あまりまざまざとその過去に横まれた過重なる練習とその虐待性を見せつけられて憂ウツな気特にさせられるのである。  

公生活の上での横紙やぶりはいいが、私生活の横紙やぶりは自分は好かない。人生に練達しない青年が自己の限の低さにまで歴史的人物を引ずり降して、これに浅薄な主観を吹き込み、青臭いダイアローグをしやべらせる。けんかをすれば損なことは事実だ。こういうしくみでは才能ある作家をつかまえることも困難だし、育てることは一層不可能である。つまり、だまされむということもまた一つの罪であり、昔から決していぼっていいこととは、されていないのである。すなわち、政治の理想は道義であるが、そこへ近づく手段としては道義よりもまず智慧が必要なのである。

試みに思え、国民学校の一年生でも、今日先生の教えを理解し得るのは過去六年間の家庭の薫陶が基礎をなしているからである。しかし、今はそんな過去のことなんかはどうでもいい。次に、ではこれから演出者たらんとするものにはいったいどんな試験が課せられるか。